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玄関にて

玄関はどんな時でも人を出迎え、

見送ってくれる。

いやな事、嬉しい事、つらい事

中と外で様々な感情が行き交う。

よくも悪くも思い出が詰まった大切な場所である。

 

今朝、出かけようとその玄関に向かい

通勤用のスニーカーを履こうと見ると

随分と汚れていた。

早く目覚めた事もあり、出勤前であるが

早々に洗う事にした。

 

その昔は風呂場でゴシゴシとタワシで

洗っていた。今では「KUTSU石鹸」

なるものがあり、専用ブラシに液体をつけて

磨くと見る見るうちに汚れが落ちていく。

気持ちが良いくらい。

めんどうな靴磨きが楽しくなる。

 

そのせいか?

 

玄関に脱ぎ捨てられた二回り小さい長男の

スニーカーも洗濯を「おねだり」しているように

見えた。

出勤までまだ時間がある。

「よしよし」と長男の分も洗うことにした。

 

「はて、長男は洗った事に気が付くだろうか?」

「おそらく気づくまい」そう思いながら

慣れない手つきで二足目の洗濯に入った。

 

二足目となると慣れてきた。集中力も落ちる。

いつもそうだ。集中力のない私は、気を抜くと

すぐ空想や妄想に入るが、明け方だったせいか

ぼんやりと薄暗い玄関が、空想している時の

モノクロの情景と重なった。

同時に走馬灯のように過去の玄関先での

出来事が再生された。

 

動画の登場人物は昨年末亡くなった叔母である。

 

叔母の家は当家から二軒隣り。

元は当家の母屋に住んでいたため、

親戚と言っても家族のような存在だった。

 

いつも用事がある時、呼び鈴を鳴らすと

こちらが玄関に出る前に部屋に入ってくる。

戸惑うスキさえ与えずに。

それが滑稽で自然で、とにかく憎めない

人だった

 

また優しかった。私には特に甘く「まあちゃん」

と50前のおじさんを捕まえて子供扱いする

のは叔母だけだった(笑)

 

そんな叔母に一度だけ叱られたことがある。

「甘音屋はお客様に来てほしいと宣伝するが、

来てくれたお客様に対して看板も出さ

ないのか!不親切な店だ!」と。

散々叱られた為、私の拘りを曲げて渋々作った

鉄の看板が、今も庭先でお客様を出迎えている。

看板を見ると当時の叔母とのやり取りを思い出す。

とにかく筋が通らないことは嫌いな人だった。

 

彼女は義人でもあった。

困った人に手を差し伸べ、助け、尽くし、

人の為に生きた人だったが、人一倍、

人に対して感謝を忘れない人だった。

「ありがとう」が口癖で、

心からあふれ出る感謝の気持ちを

素直に表現し、皆に伝えていた。

そんな彼女にはいつも人が集い、

私も叔母が好きだった。

 

叔母は冬になると決まって同じ話をしてくれた。

幼い頃、一緒に暮らしていた曾祖父の話である。

「あなたのひい爺さんは冬になるとストーブの上に

丸い石を並べていた。毎朝私が学校に行く前に

その石をハンカチにくるんで「行っておいで」

と手渡し見送ってくれた。

それはもう温かかったよ。今のようにカイロが

ないからね。

お爺さんは厳しかったけれど、とても優しい

お爺さんだったよ」と幼き少女のように話して

くれた。

親族びいきだが、良い話である。

 

曾祖父の孫への愛情が伝わり、孫である

叔母からの感謝が感じられた。

私はそんなカイロさえ無い時代に存在しないが

「感謝」「感動」「感激」が身近に溢れていた

気がする。

 

逆にモノが豊富にある今の時代にその全てが

遠く感じる。

 

ここから私見を述べさせていただく事を

何卒ご寛恕を頂きたい。

 

今回のコロナウイルス感染拡大について、

いきさつは別として「致し方ない出来事」である。

国のせいでもない。県のせいでもない。人でも

ない。悪いのはウイルスである。

そんな中で助成金や給付金が届き、

必要か否かは別としてマスクが届く。

ありがたいことである。

 

給付金が少ない?それは元々無いものであり、

頂けるだけありがたいことである。感謝せねば。

当店もこのコロナには相当悩まされ、苦しんだ。

今もなおである。

しかし、もっと苦しんでいる人もいる。

もっと言えばコロナに感染し、亡くなった人が

いるのである。医療の現場では命を懸けて

コロナと闘う人もいる。

そう考えたら「給付金が遅い」

「マスクが小さい」など言えたものではない。

まずは「感謝しなくては」と思う。

今、叔母が生きていたらそう言ったに違いない。

 

そんな叔母の事を思い出しながら2足目の

洗濯を終えた。

「息子は気づくかな?」

またそんな事を考えている。

私はまだまだ叔母のような義人とはいえない。