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ベトナム 首都ハノイに

当社に和菓子職人は3名いる。

 

「『ゆっくり、丁寧、かつ正確』ではなく、

 

『早く、丁寧かつ正確』に仕事をこなす。

 

これが職人である」

 

職人への指導の際に出る私の口癖である。

 

とにかく職人とはその道を極めるべく

 

「他人の追随を許さない集団」

 

だと常々指導している。

 

今では指導の甲斐あってか、

 

私が不在でも黙々と和菓子作りに勤しんでくれる

 

頼もしい「集団」である。

 

そんな彼らに仕事を任せて、

 

先日ベトナムへ行ってきた。もちろん仕事。

 

新店のオープンに向けて備品を調達する為。 

 

飛行機に揺られること5時間、

 

首都ハノイの空港に到着した。

 

 

まだ朝晩が肌寒い日本とは違い、

 

とにかく蒸し暑い。厚手の洋服が現地人ではなく

 

観光客の証であるかの様に、

 

出国手続きは意外にスムーズだった。

 

 

続いて事前に預けた荷物を受け取るため

 

ターンテーブルへ。

 

「これもちがう」「あれもちがう」

 

とよく似た荷物を目で追いながら

 

自身の荷物を待つこと三十分、

 

ようやく出て来たと思えば他人のバッグ。

 

機内から私の手元まで、荷物の流れは

 

どうなっているのだろう?

 

 

荷物運搬の担当者は談笑でもしているのか?

 

それともまだシステムが整備されていないのか?

 

イライラしていると、ようやく荷物が姿を現した。

 

待ち時間は四十五分をゆうに超えていた。 

 

 

普段、荷物を預けることのない私にとっては、

 

長く感じたものの「まあこんなもんか」

 

と気持ちを切り替えて、

 

出口で待つ現地案内人へとを走らせた。 

 

その後、空港を出て車に荷物を積み込み、

 

市街地へ。

 

高速道路から見える景色は新鮮で、

 

どこか懐かしさを感じた。

 

雑然とした街の「雰囲気」が、高度成長期後半に

 

生まれた私のかすかに残っている記憶と重なった。

 

「雰囲気」と表現したが「かおり」という表現の方が

 

しっくりくるかもしれない。

 

交通は韓国や香港の様に地下鉄も無く、

 

電車も貨物が中心。移動の多くは車だが、

 

短距離の移動は全てオートバイ。

 

通学、通勤、荷物の配達、買い物、

 

子供の送り迎えは、子供を二人乗せて

 

三人乗りで走る者もいる。

 

ヘルメットも着けずに指示機を出さない人が多く、

 

交通ルールなどあったものではない。

 

信号待ちでは車と車の間に割り込んでくる。

 

その数は計り知れず。表現するならば満員電車に

 

人が押し寄せ、どんどん身動きが取れなくなる。

 

そんな光景はさすがに日本で経験がない。

また舗装されていない道路で

 

物資を運ぶトラックが、大きな音を立てて

 

弾みながら走る。ルールが無い中、自身の存在を

 

知らせる為、「小刻み」に、時に「強く」

 

クラクションを鳴らすオートバイ。

 

道路脇ではそんな騒音に負けまいと、大きな声を

 

張り上げて物売りをする人々。

 

発展途上の国が奏でる「人・モノ・金」の

 

三重奏であり、力強い国力を感じる。

 

 

しかしそんな国の「勢い」の話だけではない。

 

間違いなくベトナム製品の品質は上がっている。

 

二十年ほど前にベトナム製の漆器を購入したが、

 

塗りムラ、はがれが酷く、安価だけに文句さえ

 

言えないかったが、日本の漆器とは比べ物に

 

ならないモノだった。

 

 

しかし、今回手にした漆器は安価でありながら、

 

それなりの品質に仕上がっている。

 

またデザインも日本や欧米諸国に引けをとらない、

 

なかなかのものである。 

 

 

さて我々が生きて来た「小売り」のことに

 

少し触れたいが、ベトナムの商売はかなり強引である。

 

強引というよりは「買って欲しい」という強い意思が

 

伝わって来る。「よく」も「悪く」も。

 

土産品を買いに行っても、何を言っているか

 

分からない、一生懸命に商品説明をしようとしている

 

とは理解できる。

 

ただ客に気持よく買い物をしてもらうことや、

 

日本人が大切にする「間」(ま)の様なものがない。

 

 

これはベトナムと日本の文化、慣習の違いかも

 

しれないが、同じ商いをする上で「気持ちよく

 

買い物をしてもらう間」は「世界共通」で

 

あってほしい。

 

というよりは「相手の立場に立って行動をする

 

サービス精神」を持ってほしい。

 

 

ところがそんな中、帰路の空港で「同志」に

 

出会った。

 

沢山の買い物袋をぶら下げた私を見て、何も言わず

 

小さく微笑み、大きな袋を差し出してくれた

 

販売員がいた。「同志」である。

 

「相手の立場に立とう」その意思が強く伝わった。

 

 

「同志」に会えたその喜びついでに、「同志」の店で

 

買い物をしたが「同志」はやはり裏切らなかった。

 

ハノイではどこで買い物をしても、買い物袋は一枚だけ。

 

いくら沢山買い物をしても一枚である。

 

経済的な事情が見え隠れするが、どこも催促すれば

 

付けてはくれる。だが、あまりいい顔はしない。

 

 

しかし「同志」は何も言わなくとも、

 

購入した数の袋を入れてくれた。

 

言葉は通じなくともサービス精神は伝わる。

 

これが私の求めている「世界共通意識」である。

 

 

ベトナム滞在最終日にして「同志」に

 

会えてよかった。今度訪れたとき「同志」が

 

どのくらい増えているか楽しみである。

 

 

かつて「発展途上国」であった中国は

 

日本を抜いて世界第二位の経済大国となっている。

 

また、日本の後ろにはインドが迫っている。

 

それに比べ、技術の進歩、海外企業の進出、

 

経済成長、まだまだ発展途上とはいえ、この国の力は

 

未知数で脅威である。

 

 

帰路はそんな事を考えながら、いつの間にか機内で

 

眠ってしまっていた。

 

 

目がさめた時はすでに飛行機は着陸していて

 

無事日本に帰ってきた。もちろん迎えは必要ない。

 

慣れたホームグランドゆえ気楽である。

 

預けた荷物を待つこと十五分、ターンテーブルから

 

出て来た。

 

 

荷物一つだけの事だが「速く、丁寧、正確」に

 

出て来た。日本人の職人魂は、まだまだ健在である。

 

ベトナムはこの三十分の時間の差を何年かかって

 

縮めてくるのだろう?

 

 

街の開発が進む事は歓迎したいが、贅沢を言うならば、

 

私の記憶にある地良い、懐かしい「かおり」は残して

 

ほしい。